フォーラム福岡

パブリックアクセス誌フォーラム福岡

真価問われる九州新幹線 開業2年目で見えてきた課題

2012年5月31日発行の43号より

フォーラム福岡43号特集記事に関するアンケートを実施しております。ご協力いただいた方全員にフォーラム福岡43号をプレゼントいたします。皆様のご意見ご感想を心よりお待ちしております。
こちらのページよりご回答ください。» アンケート回答フォーム

昨年3月12日に全線開業した九州新幹線・鹿児島ルート。関西・中国地方からの観光客増加が伝えられる半面、地域によっては「思ったほどの効果が見られない」との声も。新幹線が地域にもたらした変化と現実を追った。

全線開業効果と震災の影響で九州が国内観光の受け皿に

「快走」が伝えられる九州新幹線・鹿児島ルート。全線開業1年間の利用実績をみると、博多〜熊本間では896万1000人。前年同期の在来線特急と比べると37%増えている。東日本大震災直後の自粛ムードや冬場の利用の伸び悩みから目標の40%増をわずかに下回ったものの、まずまずの健闘と言えるだろう。一方、熊本〜鹿児島中央間は、前年同期の部分開通区間(新八代〜鹿児島中央)から65%増の514万2000人。目標の40%増を大幅に上回った。

特に、新大阪直通の「みずほ」「さくら」が博多〜熊本間で59%、熊本〜鹿児島中央間で40%と、九州内発着の「さくら」「つばめ」に比べて高い乗車率を維持。大阪から鹿児島まで乗り換えずに行ける「直通効果」を顕著に表している。

それを裏付けるのが、民間シンクタンク・九州経済調査協会がまとめた「九州新幹線全線開業後の九州における観光消費の状況」及び「九州新幹線開業の効果と交流拡大に向けた取組」の2つのレポートである。

それによると、九州7県の2011年度観光消費額の推計は前年度を11%上回る2兆4900億円。特に、4〜12月の近畿・中国・四国地方から九州への宿泊客は、いずれもおおむね前年の1・5倍と大幅な伸びを見せている。

県ごとに見ると、近畿からの宿泊者数が前年に比べて最も大きく増加したのは、熊本県の前年比97・4%増。次いで鹿児島県68・7%増、長崎県同52・9%増。中国からは、鹿児島県が前年比125・8%増、宮崎県108・4%増、熊本県42・9%増。九州新幹線の効果は、沿線県以外にも波及しているとみられる。

ただし、震災と原発事故の影響で東日本方面への旅行が敬遠され、結果的に九州が国内観光の受け皿となった面も大きく、すべてを新幹線効果と見ることはできない。

たとえば、近畿地方の中学校の31%が東日本大震災の影響で修学旅行の目的地を変更。そのほとんどが関東方面を予定していたが、うち7割近くが九州を訪れている。大半が長崎に宿泊。「平和学習など修学旅行受け入れの実績が豊富で、コースも充実している長崎が、急な振り替え先に選ばれたもの」と九経調では分析している。

域内の日帰り化を関西・中国の観光客がカバー
懸念された「ストロー現象」の流れナシ

一方、開業前から懸念されていたのが、福岡への一極集中、人の流れを吸い上げる「ストロー現象」だ。開通後、支店の統合など仙台へのストロー現象が顕著となった東北新幹線の先行事例もある。しかし、日本政策投資銀行九州支店の久間敬介・企画調査課長によると「今のところ、九州各都市とも支社の統合やオフィス集約といった現象は見受けられない」という。

確かに、ストローの「口」となる福岡都市圏で、小売業等の売り上げは伸びている。一方、福岡以外の各都市では、前年比で全国平均をやや下回る傾向が見られ、その点からは、薄く、広く、影響は出始めているのかもしれない。しかし、「事前に予想されたような大きな流れとはなっていない」と久間氏はいう。

当然のことながら、時間短縮効果によって、鹿児島、熊本では、九州域内の観光客が宿泊せずに日帰りするといった「日帰り化現象」は起きている。しかしながら、前述のように近畿・中国・四国地方からの観光客が、十二分にカバー。熊本、鹿児島など九州の地方都市が底力を見せた格好だ。

「今後、ストロー現象はある程度進むだろうが、福岡がすべてを吸い取ってしまうのではなく、福岡が九州の牽引役となって、全体を引き上げていくことを期待したい」(久間氏)

2次交通の成否がカギ
東西の横軸には薄い全通効果

開業効果は著しく、懸念された一極集中はさほど見受けられないー。いいことづくしのようだが、地域ごとの実情はどうだろうか。


観光特急「指宿のたまて箱」

一人勝ちのように見える鹿児島県の中でも、最も新幹線効果が顕著に見られる観光地が、砂蒸し温泉で知られる指宿だ。JRが新幹線全線開通に併せて導入した観光特急「指宿のたまて箱」が好評で、連日ほぼ満席。指宿の宿泊客数は、2008年の大河ドラマ「篤姫」ブームをピークに、減少の一途をたどっていたが、昨年5月から急増。現在も上り調子が続いている。また、口蹄疫に続いて新燃岳噴火の影響でツアー客が激減し、苦境に立たされていた霧島も、口蹄疫の影響がなかった2009年並みに客足が戻ってきたという。

ただし、鹿児島県観光課によると「観光地が薩摩半島に集中していることもあり、大隅地域への波及効果は今ひとつ」。県は、全線開業に合わせて、大隅地域に宿泊するとレンタカーを24時間無料にする制度などで誘客策を練ってきたが、同地区への宿泊者は前年比プラス数%レベルにとどまっている。

「指宿のたまて箱」が象徴するように、2次交通の成否が開業効果のカギとなっているようだ。

観光特急「あそぼーい!」「A列車で行こう」によって、熊本県・天草、阿蘇は好調。一方、新幹線の全通効果を東西の横軸に広げようと導入されたバスなどは苦戦が目立つ。九州観光推進機構は、新幹線駅と観光地を結ぶ周遊バス「なないろ九州バス」の試験運行を今年3月で終了。新八代駅と宮崎駅を結ぶ高速バス「B&Sみやざき」も、どうにか利用者が増えつつある程度。

宮崎県は、熊本、鹿児島とともに「南九州3県デスティネーションキャンペーン」を展開。新幹線の波及効果を期待したものの「残念ながら、目に見える形での伸びはない」という。

伸び悩む新駅
在来線のダイヤ改正も裏目に

さらに、市街地から離れた所にできた新駅は一様に利用者が伸び悩んでおり、新幹線開通に伴う在来線のダイヤ改正の影響も重くのしかかる。

新大牟田駅は西鉄駅が併設する市中心部の在来線駅から約7キロ離れている。しかも、在来線の特急上りは、早朝の3便に減少。大牟田市が昨年9月に実施した鉄道利用に関するアンケート調査では、「大牟田駅と新大牟田駅が離れすぎていて、公共交通のアクセスが悪く不便」「在来線の特急が極端に少なくなりすぎて利用しづらい」「博多往復が3000円だったのが、新幹線では5000円となり、高すぎる」といった声が寄せられている。

新玉名駅では「カー&レール」の流れをとりこもうと駐車場を無料に。しかし、日に60数本走っていた在来線特急は、早朝の上りと深夜の下り1便ずつとなった。また、開業に伴い大牟田〜熊本間に快速列車が導入されたが、これは増発ではなく、1時間に2本走っていた普通列車の1本を快速としたもの。快速は、肥後伊倉駅と大野下駅には止まらない。玉名市地域振興課によると「結果として便数が減ったことで、地域から不満があがっている」という。

今春のダイヤ改正で、JR九州は新大阪直通「みずほ」「さくら」を16本(8往復)増発。1日あたり46本(23往復)走らせることにした。しかし、筑後船小屋、新大牟田、新玉名の3駅は上下3本のままで1本も増えていない。大牟田市では「大阪までの直行便を増やして欲しい」と、JRに要望し続けている。

反動減の危機に、真価問われる2年目
『九州はひとつ』広域的視野からの戦略を

地域によっては、多少の影を落としながらも、都市間交流や観光客の拡大に、確かな効果を及ぼした九州新幹線だが、その真価が問われるのは2年目以降だ。先述のように、昨年は震災、原発事故で回避された「東日本への旅行の振り替え需要」という要素があるから、なおさらだ。

既に、スカイツリー開業が首都圏観光の追い風となっており、震災復興イベントなども含め、これから観光の流れが東日本へ移ることが大いに予想される。東日本だけではない。2014年には、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに映画「ハリー・ポッター」をテーマにした新エリアが建設される。

「篤姫ブーム」の反動減を経験済みの鹿児島県は、新幹線効果の恩恵が大きいだけに、危機意識を強めている。県観光課では、リピーター対策など増加した関西、中国、四国からの観光客の維持に務める一方、従来からの2大市場である「東京と福岡」を強く意識。「改めて、大市場・東京を重要なファクターとして戦略をたてていきたい」という。

また、福岡県と筑後地区の自治体でつくる筑後田園都市推進評議会は「開通効果を観光客増加に生かそう」と、久留米、筑後船小屋、新大牟田の3駅発着の「観光タクシー」を企画。福岡県筑後地区タクシー協会加盟の9社で5月末から運行を開始した。

JR九州では、国内やアジアの富裕層をターゲットに、九州一周の旅を楽しむ豪華寝台列車の運行を計画している。

時間地図を変えた新幹線。久間氏は、「九州で狭い地域間競争をしている時代ではない」と指摘する。「今こそ、この九州新幹線を大きな武器として、広域的視野から九州が一体となって戦略をたてていかなければいけない」。新幹線効果を一過性のものに終わらせないために、文字通り「九州はひとつ」の協調、連携が求められている。(永島 順子)

フォーラム福岡43号特集記事に関するアンケートを実施しております。ご協力いただいた方全員にフォーラム福岡43号をプレゼントいたします。皆様のご意見ご感想を心よりお待ちしております。
こちらのページよりご回答ください。» アンケート回答フォーム

※当ページの内容は、2012年5月31日発行の43号に掲載されたものです。

« トップページへ戻る

<< トップページへ

Copyright © 2012 Forum Fukuoka. All Rights Reserved.