フォーラム福岡

パブリックアクセス誌フォーラム福岡

首都バックアップ機能の誘致で注目される福岡

2012年11月30日発行の46号より

フォーラム福岡46号特集記事に関するアンケートを実施しております。ご協力いただいた方全員にフォーラム福岡46号をプレゼントいたします。皆様のご意見ご感想を心よりお待ちしております。
こちらのページよりご回答ください。» アンケート回答フォーム

東京圏に不測の事態が生じた場合のバックアップ機能に注目が集まっている。西日本地区の日本海側に位置する福岡は災害の少なさ、都市・産業の集積、アジアとの近接性からバックアップ拠点としてクローズアップされている。

過度に中枢機能が集中する東京の現状

人口の3割弱、GDPの3割強、国内銀行貸出残高の5割強、国内情報サービス業の6割強、大企業本社・本店数の6割強、外国法人数の8割強……。東京都をはじめ、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県で構成する東京圏には、行政や経済などの中枢機能が集中している。

万が一、東京圏において震災など、不測の事態が生じた場合、日本全体に大きな影響をおよぼす恐れがあることは明らかだ。2011年3月11日に発生した東日本大震災によって中枢機能が、東京に一極集中することによる弊害が再度認識された。そして、関西地区の知事らからは首都機能の関西移転についての活発な発言が飛び出した。一方、東北地区の被災地自治体からは、復興の一環として首都機能の東北移転が提案された。

東日本大震災復興構想会議が2011年6月、『復興への提言』を発表して、大災害が生じた場合に備えた各種機能のバックアップのあり方、機能分担・配置のあり方などの必要性を指摘した。また、国土審議会防災国土づくり委員会『災害に強い国土づくりへの提言』(2011年7月発表)においても東京圏の機能分担やバックアップについての検討の必要性を示した。

これらの動きを背景にしながら、首都中枢機能などのバックアップに耳目が集まる。

首都中枢機能のバックアップとは何か

最近話題に上ることが多い首都中枢機能のバックアップとは、どのようなことを指すのか。


前九州大学産学連携センター教授 谷口博文さん

「いわば国家にとってのBCP(事業継続計画)の一環が、首都機能バックアップといえる。バックアップしていく上では発生要因を問わず、何であっても対応することを前提に議論をしていく必要がある」と、九州大学産学連携センター教授として首都機能のバックアップ問題も手掛けた谷口博文さんは解説する。

対象となる首都中枢機能とは、国土交通省防災国土づくり委員会の『東京圏の中枢機能のバックアップに関する検討会 二次とりまとめ』(2012年4月発表)によると、東京圏にある立法・行政・司法中枢機能や民間企業などの本社機能のうち、主に行政の中枢機能を指す。

バックアップ自体は、「東京圏において中枢機能の継続が不可能となった場合に、その間、他の地域で中枢機能を代替する」(『東京圏の中枢機能のバックアップに関する検討会 二次とりまとめ』)という一時的な行為だ。かつて議論された国会等移転をはじめとする首都機能移転などの「恒常的な移転とは異なる」(同)。さらに「後方支援的活動を検討の対象とするものではない」(同)とする。

東日本大震災後における防災の検討状況

未曽有の被害をもたらした東日本大震災後、防災についての検討は、政府内でも内閣、内閣府、国土交通省でそれぞれ進められた。

内閣が「我が国の叡智を結集して復興に向けた指針策定」のために立ち上げた東日本大震災復興構想会議は2011年6月、『復興への提言』を発表した。

一方、内閣府が中央防災会議に設けた防災対策推進検討会議は東日本大震災での検証・総括に加えて、首都直下地震や豪雨災害への防災対策の充実・強化を検討。そして、今年3月『防災対策推進検討会議 中間報告』、今年7月『同 最終報告書』をまとめた。

また、防災対策推進検討会議に設けた首都直下地震対策ワーキンググループは今年7月、『首都直下地震について 中間報告』を発表した。

さらに内閣府は、首都直下地震に係る首都中枢機能確保検討会を設置。今年3月、『首都直下地震に係る首都中枢機能確保検討会 報告書』をまとめた。

2011年6月、国土審議会政策部会の下に防災国土づくり委員会を設置し、翌7月にとりまとめたのが、『災害に強い国土づくりへの提言』である。

国土交通省は、万一の場合における東京圏の中枢機能のバックアップの確保について、2011年12月から検討会を開催して、今年4月に『東京圏の中枢機能のバックアップに関する検討会 二次とりまとめ』を発表した。

注目を集める首都バックアップ機能の誘致

一連の首都機能のバックアップを論議していく上で、具体的な候補地のひとつとして福岡の地名が挙がったのは、首都直下地震対策検討ワーキンググループによる『首都直下地震対策について(中間報告)』の文中だった。

同中間報告では、東南海・南海地震などの大規模地震を想定して、国が現地対策本部の設置予定箇所を定めることを提言する。

さらに「各省庁の地方支分部局が集積する各都市(札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡など)を代替拠点としてあらかじめ設定し、被災の状況等に応じて、このうちから業務を継続する代替拠点を決定することとすべきである」とした。

西日本地区の拠点都市であり、国の出先機関が集積する福岡は、東京圏において大震災などの不測の事態が生じた場合に首都機能をバックアップしていく上での代替拠点のひとつと見なされている。

首都機能バックアップの移転要件

「バックアップに関する基礎的な検討を進め、論点と考え方を提示する」ことを目的に検討した、国土交通省『東京圏の中枢機能のバックアップに関する検討会 二次とりまとめ』では、バックアップの場所として、次の要件を提示している。

●東京圏との同時被災の可能性が低い
●災害の蓋然性が低い
●東京圏との間のアクセスが容易かつ確実
●代替要員が必要数確保できる
●活用しうる既存の代替施設・設備等が多く存在

バックアップ機能については東京と同時被災しない場所に位置して、災害が少なく、集約的な立地に複数設置していく考えだ。そして、バックアップ場所は、民間との連携の観点から公開する方針を示す。

代替拠点の開設については、「財政制約を勘案し、既存の要員、施設・設備等を活用して初期コストや維持・管理コストを抑える」として、既存の施設・設備、都市や産業などの集積を活用していく意向だ。

バックアップ機能の受け皿としての福岡

バックアップ機能はAAAの福岡に―。福岡市が、首都機能バックアップの誘致に向けて作成した資料では、その適格性について、AAA(トリプル・エー)という表現を用いて、アピールしている。

福岡がバックアップ機能誘致に適しているとする、3つのAの理由は次の通りだ。

●A安全・安心
・福岡は東京圏と同時被災するリスクが低い
●A都市の集積(ACCUMULATION)
・福岡は大規模な経済機能、都市機能を有する
●Aアジアの玄関口(輸送拠点)(ASIA GATE)
・福岡は東アジアとの円滑な連携が可能

南海トラフによる三連動地震(東海+東南海+南海地震)が仮に発生しても、西日本地区にあって、日本海側に位置する福岡は、東京圏と同時に被災するリスクは低い。

また、日本海側においては、津波による被害の可能性も低いため、バックアップ拠点として福岡は、地理的に適当であるといえる。加えて、福岡には大規模な経済機能をはじめ、都市機能、交通手段などがあり、今後求められる東京圏の機能分担に幅広く対応可能であると考えられる。


福岡市総務企画局企画調整部 臼井智彦企画課長

「大規模な地震の発生確率が低く、大津波の危険性がない福岡は、機能分散という観点からも非常に重要な位置にある。東京圏との地理関係から同時被災の可能性が低い福岡市内には、数多くの情報関連業も集積しており、データバックアップ先としても魅力がある。まず、福岡に目を向けてもらって、国や民間企業に意識してもらうことが大事だ」と

福岡市総務企画局の臼井智彦企画課長は考える。

バックアップ機能誘致に向けた官民の動き

現在、福岡市は、国土交通省による検討を踏まえ、専門家への意見聴取をもとに「福岡市におけるバックアップの重要性、福岡市として担える機能や地理的適合性の整理」をすすめている。

「福岡の適合性の具体的な整理、必要となる空間ボリュームの検討など具体的なバックアップ実現方法、効果の推計」などを明らかにしながら、東京圏バックアップ先としての福岡市の適合性を国の関係機関や民間企業等に説明していくことで行政機能や経済機能の誘致をすすめていく考えだ。

一方、福岡県は今年3月に策定した『福岡県総合計画』における基本的な考え方の一つとして、「中枢機能のバックアップ体制の構築も必要」と打ち出す。


福岡のコンパクトなまちのつくりも魅力のひとつになっている(画像提供 福岡市 PHOTO Fumio Hashimoto)

東日本大震災対応特別委員会を立ち上げた福岡経済同友会は本年7月、『東日本大震災からの日本経済復興のための第二次提言』を策定し、福岡県や福岡市などへの提言を行った。この提言も踏まえ、東日本大震災対応特別委員会を「首都・本社機能等誘致委員会」に名称を変更、経済機能を含めたバックアップの誘致に取り組んでいくとする。

九大跡地利用でも脚光浴びるバックアップ

九州大学箱崎キャンパスにおいては、跡地の計画的なまちづくりに向け、学識者や周辺各校区の代表、経済団体などで構成された「九州大学箱崎キャンパス跡地利用将来ビジョン検討委員会」が今年3月に設置され、今年度末の九大総長および福岡市長への提言に向けて、検討が進んでいる。

「箱崎キャンパスは、空港、港が近接するなど交通アクセスが充実し、大規模な土地利用が可能であることから、東京圏バックアップ機能立地の可能性があるのではないか」―。今年6月に開かれた第2回同委員会でも首都機能バックアップは話題に上った。そして、先述の、福岡がバックアップに適している3つの理由についての説明がなされた。

約42ヘクタールという広大な九州大学箱崎キャンパスは、天神から北東に約4・5キロ、博多駅からも北へ約4キロの地点に位置する。さらに福岡空港まで約3・5キロ、アイランドシティの港湾エリアまで約5キロ、さらに九州自動車道の福岡インターまで約6キロという、極めて交通が便利な土地だ。

九州大学箱崎キャンパス跡地におけるまちづくりについては、これまでも各所で様々な検討がなされており、財団法人福岡アジア都市研究所による自主研究『大学移転に伴う箱崎地区の変容と地域づくりに関する研究II』報告書(2010年3月)において、「キャンパス跡地に、手狭になっている国の合同庁舎および地方事務所等を集約させ、官庁街を核とするまちを形成する」という考え方も示されている。

「交通の結節点にある九大箱崎跡地に国の出先機関を移転・集約させることは、バックアップ機能の受け皿となる行政機能だけでなく、広域防災基地としても重要な意味がある。実現に向けては、新しい官民連携であるppp(public private partnership)の手法なども積極的に取り入れながら、地元が一致団結して主体的に取り組むことが大事だ」と、谷口さんはみる。

首都機能バックアップについては、様々な可能性を秘めながら、いま脚光を浴びている。(近藤 益弘)

フォーラム福岡46号特集記事に関するアンケートを実施しております。ご協力いただいた方全員にフォーラム福岡46号をプレゼントいたします。皆様のご意見ご感想を心よりお待ちしております。
こちらのページよりご回答ください。» アンケート回答フォーム

※当ページの内容は、2012年11月30日発行の46号に掲載されたものです。

« トップページへ戻る

<< トップページへ

Copyright © 2012 Forum Fukuoka. All Rights Reserved.